ガールズトークで盛り上がるある日のアジト。偶然通りかかったソロモンも巻き込み、話題はボティスが現在同居している男の話に。
行き倒れていたところを助け、成り行きで世話をしているだけだとボティスは否定するが、「またボティスが悪い男に引っかかった」とすこぶる評判は悪い。
そこにヒュトギンが現れ、彼が交渉官を務めるトーア公国で厄介な問題が発生したという。
かつてフルカネリ商会と繋がり王都への反乱を企て、幽閉されていた前トーア公アイゼンが、メギドの手を借りて脱獄したのだ。
事情を知るウェパルとモラクス、マルコシアスを中心にその場にいたボティスも加わり、ソロモンたちはトーア公国へと向かう。
トーア公国は5年に一度の「鉄血祭」が目前に迫っていた。
鉄血祭とはヴァイガルド中から集まった猛者が最強を決める武術大会であり、さらに今回は新トーア公のお披露目という重要な意味を持っていた。
アイゼンの失脚後、その地位を継いだのはシュタールという遠縁の年端もいかない少年だった。
それに不満を持つ者がアイゼンを担ぎ上げ、再び反乱を起こすのではないかとヒュトギンは危惧する。
王都や各地の有力者も招かれるその大きな催しは、シュタールへの不安視を払拭するまたとない機会だが、同時に彼の身を危険に晒すことにもなるのだ。
優勝者には新トーア公から贈呈品が下賜される。もし鉄血祭の出場選手として暗殺者が紛れ込んでいたら、そしてその暗殺者がメギドだったなら…。
最悪の事態を防ぐため、ヒュトギンはソロモンに鉄血祭への軍団のメギドの参加を要請する。
冷静かつ守りにも長けると指名されたボティス。頼まれたら断れないボティスは出場を承諾するが、同居している男のことを思い人知れずため息をつく。
実は、かつて「不敗の騎士」と呼ばれながらも落ちぶれたその男マケルーが、鉄血祭で優勝して矜持を取り戻すとボティスに約束していたのだ。
それぞれの思惑が入り乱れる、波乱の鉄血祭が幕を開けようとしていた。
トーア公国に到着したソロモン一行。
同じくヒュトギンから鉄血祭に出場するよう指名されたストラスと合流し、アイゼンが幽閉されていた監獄塔を調べる。
檻が捻じ曲げられた牢屋の壁には、フォトンで文字が記されていた。ソロモンへの宣戦布告とも取れるその内容に、裏に潜むメギドの存在を確信する。
調査を終えた一行がトーア公国の宮殿へ戻ると、来賓として招かれていたシバの女王と出くわす。
シバもヒュトギンと同じく、アイゼンが再び台頭すること、さらには「アイゼン派」と「現トーア公派」で分かれ内紛が起きることを危惧していた。
アイゼンが民を扇動する事態を防ぐべく、ソロモン達には周辺に現れた幻獣討伐と並行してアイゼンの捜索と拘束が命じられる。
公国の広場はすでに鉄血祭のためヴァイガルド中から集まった人々で活気に溢れていた。
アイゼン捜索に向かおうとしていたソロモン達は、試合を控えて別行動を取っていたボティスを広場で発見する。
どこか上の空のボティスを激励して郊外に出ようとする寸前、騎士団が訓練用に飼育していた熊が脱走したとの知らせが飛び込み、ソロモン達も咄嗟に応戦する。
負傷者を出したものの、熊達は大会の予選出場者達によって討伐された。
大会の運営委員はこの熊の討伐を果たした15名の選手を予選通過者として決勝トーナメント進出の発表をする。
それを聞いていたソロモン達。ウェパルはこの熊の脱走も仕組まれたことではないかと嫌な予感を覚える。
決勝に進出した者の中にはボティス、マケルーの姿もあった。
そこに広場でボティスと話していた強面の男…バロールが現れる。
謙虚な言葉とは裏腹に、彼の放つ挑発的な殺気に気付いたボティスは、直感的にこの男がメギドであると感じ取る。
バロールは、マケルーがボティスを盾にするように隠れて逃げ回っていただけだったことを見抜き、臆病者だとなじる。
ボティスが仲裁に入りその場は収まるが、マケルーはバロールに最後まで言い返すことができなかった。
一方その場を離れたバロールは、一部始終を観察していた男と路地裏で密議をこらす。
ザミエルと呼ばれた男は、乗り気ではないバロールに筋書きを確認する。
彼の語る作戦内容はシバの女王が危惧した通り、アイゼン派を扇動してこのトーア公国に戦乱を、果てには王都とトーア公国の戦争に発展するまでを見据えていた。
彼らこそトーア公国を脅かそうとするメギドラルからの刺客であった。
試合の開始を待つバロールは、作戦でトーア公国を訪れたときのことを思い返す。
任務中ザミエルを含む味方の裏切りにより置き去りにされたバロールは、彼らが呼び出した幻獣によって窮地に陥る。
それを救い保護したのが、若き日のアイゼンでありトーア公国だった。
自ら怪我を負いながらも助けてくれたアイゼンに、バロールは少なからず恩義を感じていた。
武闘場にシュタールの声が響き渡る。鉄血祭の開催が宣言された。
出番を待つボティスとストラス。控えの間にマケルーの姿がなかったことをボティスは気にしていた。
しかしマケルーは一向に試合会場に現れない。心配するボティスをよそに、マケルーは取り逃した最も獰猛とされる熊を一人撃退していた。
出場取り消しとなる寸前、傷だらけのマケルーは武闘場に現れる。
一回戦第一試合。マケルーは休む間もなく試合に臨む。
調子を取り戻し辛くも勝利したマケルー。バロールは戦う姿勢を取り戻したマケルーを認め、マケルーもまた痛烈な言葉が自分を立ち上がらせてくれたのだと礼を言う。
第二試合。バロールはものの一瞬で勝敗を決し、続くストラスもうっかり相手を秒殺し勝ち進む。
その頃ソロモン達は、トーア公国の周辺の幻獣を討伐しながら、フォトン文字で記されていた「北の地」を目指していた。
そこでは同じく何者かに手紙で呼び出されたバールゼフォンがいた。
ソロモンはやはりアイゼンの意図によってことが進んでいることを確信する。
トーナメントは二回戦に入る。
シバは大会参加者の中に紛れ込んだメギドを、バロール、そして研究員風な眼鏡の優男アッシュの二名まで絞り込んでいた。
そのバロールとストラスの試合が始まった。
ストラスはバロールの強さに瞬時にメギドであることを察知する。
手加減なしの激戦の中、ついにストラスの一撃がバロールを穿つその瞬間、しかしストラスは不自然に足を崩し転倒する。
その隙を逃さなかったバロールの反撃によりストラスは倒れ、勝負はバロールの勝利に終わった。
医務室で目覚めたストラス。試合は間もなく準決勝を迎える頃である。
付き添っていたボティスとヒュトギンに、自分の身に起きたことを伝えた。
アッシュとの試合を控え不安げなボティスに、ストラスはアドバイスを送る。
一回戦の一度の回し蹴りを見ただけでアッシュの攻略法に至っていたストラスに驚愕しながらも、ボティスは試合に向けて退室する。
ヒュトギンは彼女に、アッシュの正体が「隠し球」として用意した三人目の味方のメギドであることを明かす。
ボティスとアッシュの試合が始まろうとしていた。
アッシュの観客を沸かせるため目立つように振る舞う動きの大きさと、ストラスの助言のおかげでボティスはアッシュに勝利する。
アッシュは悔しがる素振りもなく、「じゃあ僕はおとなしく『裏方』に…」そう言うと試合会場から去っていった。
ボティスが試合場から戻ると、マケルーが勝利を讃えていた。
君がこんなに強かったなんて、私も負けていられないと奮い立つマケルーだが、ボティスは彼に次の試合を棄権するように勧める。
彼の次の対戦相手はバロール。メギドとヴィータであれば、マケルーには勝ち目は無い。そして、負ければまたマケルーは自信を失う…そのことをボティスは心配していた。だがマケルーは変わった。
「私が本当に恥ずべきなのは、『負ける』ことではない、『逃げる』ことなのだ」
マケルーは迷いを捨てた表情でボティスを見据えてそう告げる。
戦えば必ず負けるだろう、その覚悟を持った上でマケルーはバロールの待つ試合会場へと向かう。
試合に赴くマケルーの背中を見つめ、ボティスは戦いから遠ざけることで守ったつもりでいた自身の傲慢を恥じた。
「がんばって、マケルー…!」
試合の舞台に立つマケルーに向けて、ボティスは本心から出た言葉をかける。
決勝戦進出を決める戦いが始まる。
マケルーは自分が運だけで勝ち上がったことを隠さずに伝える。
自身の弱さを知り、震えながら、それでも逃げずに挑む姿をバロールは称える。
実力差は明白だったが、何度攻撃を受けてもマケルーは立ち上がる。
もはや精神力のみで立ち上がるマケルー、だがバロールにもここで引くわけにはいかない理由がある。
容赦の無い攻撃の連続についにマケルーは気を失い倒れる。
勝敗は決した。試合場を後にするバロールは過去の約束を思い出していた。
メギドラルに戻るアテも無いバロールはしばらくの間、アイゼンの話相手として同行していた。
そんな日々の中で、自分の王国を築き上げるという野心に燃えるアイゼンはバロールにその夢に手を貸してくれないかと頼む。
バロールも恩義のあるヴィータの夢を叶えてやりたいと考えていたが、メギドラルへと帰らなければならない。
もし再び出会うことがあれば。「世話になった義理は返す」そう言ってバロールはアイゼンと別れ、メギドラルへと帰還した。
そうしてメギドラルへ帰還して数年後。
バナルマ明けの若いメギドを戦争において使い潰そうとする軍団長に対立し、半殺しにした罪で懲罰局に投獄されていたバロールの前にチリアットが現れる。
バロールの仁義を通すやり方に一目置くチリアットは、口聞きをしてここから出してやる代わり、軍団に入るようバロールに言う。
その後、釈放されたバロールはチリアットを探す。だが、バロールは義理を果たす前にチリアットが戦死したことを彼の部下から知る。
更にバロールを絶句させたのはそのソロモン王なる人物がヴィータということであった。
バロールはチリアットの仇討ちを果たすため、ザミエルの話に乗った。
試合は佳境に入る。
観客席には怪しい黒いローブの男が潜んでいることも確認していたが、主犯格であるアイゼンの確保は未だ完了していない。
ヒュトギンは暗殺者が会場に紛れ込んでいることをシュタールに明かす。
賊が捕らえられるまでどうか、決勝の試合を中止し、この場に留まって欲しいとヒュトギンは願い出る。
しかしシュタールから返ってきたのは、予定通り決勝戦を開始せよという言葉だった。
予想だにしない返答にヒュトギンは驚きをあらわにする。
シュタールは言葉を続ける。アイゼン公ならば、そのような事態でも堂々と武闘場に赴かれたはずだ、と。
彼の目にはアイゼン公の後継者としての覚悟が宿っていた。
力も無いシュタールが今、唯一できること。それが家臣を信じることであった。その信頼はヒュトギンにも向けられている。
トーア公としての立場を果たそうと必死に脅威に立ち向かおうとしているシュタールの覚悟に、ヒュトギンも応える意志を示す。
武闘場にシュタールの声が響き渡る。決勝戦の開始が宣言された。
シュタールを守るために、ヒュトギンはボティスにその護衛を託していた。
次善策を裏で講じるのではなく、シュタールに向かう凶刃をボティスならば守ることができる。
だからこそ協力者を捜すためにヒュトギンは行動を開始していた。
ヒュトギンから信頼を受けたボティスは、決勝戦を前に警戒を厳にする。
そのシュタールを守るという意識もあり、戦闘開始後のバロールの攻勢に防戦一方になってしまうボティス。
しかしボティスの巧みな守備にバロールもまた決定的な一打を与えることができない。
「バロールの野郎め 手間取ってやがるな…」
武闘場を高くから眺めるザミエルは苛立っていた。
本命の「魔弾」がボティスとバロールの戦闘に挟まれる形でうまく射線が通らずにいたからである。
膠着状態の2人、しかしボティスが徐々にバロールを追い込み後方へにわかに退かせる。
遠目から狙撃を企むザミエルにとっては格好の立ち位置となった。
これでシュタールに射線が通る…。
しかし、ザミエルの目に映ったものは射線を遮るボティスの鋭い眼光であった。
頑強なボティスの盾が、ザミエルの放った凶弾を防いだのである。
ザミエルにはボティスが防ぐ前に、バロールが示し合わせたかのようにボティスを蹴り飛ばし、シュタールを狙う射線上に誘導した動きも見えていた。
暗殺の失敗を悟り、幻獣をけしかけ混乱のうちにメギドラルに帰還しようとするザミエル。だがそれはヒュトギンとアッシュに阻止された。
狙撃を阻止したボティス、しかしバロールはまだ脅威は去っていないと即座に叫ぶ。
瞬時に上空から飛来する有翼の幻獣たち。
その場にいたシュタールを守りながら応戦する2人。
観客席にいたエリゴス、アマゼロト、ハックも襲撃してきた幻獣の討伐に乗り出す。
医務室から出てきたストラスも緊急事態に応戦していた。
そこに郊外からソロモン達も戻ってくる。
ソロモンはストラスに避難者の支援を頼んだ後、手に持っていた遺物を起動させ幻獣を誘き寄せた。
ストラスはソロモンが持っていた遺物よりも、彼と同行していた人物に目を丸くさせた。
トーア公国の前騎士団長、そしてアイゼン公と共に姿を消していたデーゲンその人であった。
突然の幻獣の襲撃に動揺するシュタールを庇い、ボティスは懸命に幻獣と戦う。
無秩序に観客を襲う幻獣の群れ、しかし幻獣に立ち向かっていたのはメギドだけではなかった。
鉄血祭の参加者たちもストラスと共に幻獣に応戦し、逃げ遅れた観客の避難に力を注ぐ。
ザミエルは自分の背後に更に上位の存在がいるのかをヒュトギンから尋ねられていた。
しかし、ザミエルの一瞬の沈黙こそ、彼単独の作戦であることの証拠であった。
ザミエル自身が理解の及ぶ前に、彼への絶命の一撃が入る。
その神速の技の使い手、出場選手の1人でもあるアッシュが絶命したザミエルの背後から姿を表す。
ヒュトギンが護衛に隠していたアッシュの姿は瞬く間に変わる。
変装の名人である怪盗オレイ、そして相棒のカルコス。
ヒュトギンたちは急ぎ、武闘場へと引き返す。
シバの女王はカマエルの護衛を受けつつ、シュタールの姿を必死に探していた。
シュタールは武闘場にボティス、バロールと共に取り残されていた。
そして、そこにヒュトギンが発見した黒いローブの男が現れる。
バロールが何かを伝え促した後、その男はシュタールへと近づく。
ボティスが幻獣からの攻撃に応戦する隙を縫うようにシュタールの目の前まで接近する男は、その場でローブを脱ぎ捨てた。
彼こそ、前トーア公アイゼンその人であった。
ボティスたちの間に緊張が走ったその瞬間。アイゼンは、シュタールの目の前で片膝をつき頭を下げる。
今回の脱獄の件も、不逞の輩がシュタールの命を狙っているという噂を耳にしたため、そして脱獄の罰はこの後、なんなりと受ける。
されどこの火急の事態にどうかこの剣を陛下のために振るわせていただきたいとアイゼンはシュタールに願い出る。
多くの人々が見つめる中、シュタールが威厳をもってアイゼンに命を下す。
彼こそが現トーア公である。誰が見ても明らかであった。
アイゼンは立ち上がり、高らかに叫ぶ。幽閉の身なれど、陛下を守るべく馳せ参じたと。
幻獣の襲撃に混乱していた騎士団はアイゼンの指揮のもと、陣形を組み反撃に転じる。
◇
「…まさかアイゼンの狙いが『今のトーア公を立てること』だったとはね」
幻獣と応戦していたウェパルがソロモンに話しかける。
未だ、ことの真相が飲み込めていないモラクスに、同行していた元騎士団長デーゲンは
アイゼンが、幼きシュタールを不安視する今のトーア公国に対して、ザミエルの仕組んだ暗殺計画を逆に利用し、シュタールの威信を高めることを考えていたと再度話す。
トーア公国の郊外でデーゲン、そしてアイゼンと出会っていたソロモン一行は先に今回のアイゼンたちの企みの真相を知っていた。
ソロモンを誘き寄せるために使用した幻獣寄せの遺物を、今度は逆に利用する形で惹きつけた幻獣たちを駆逐していく。
そこにヒュトギンも合流し、「もう1人」の暗殺者も始末したことを伝える。
戦闘の果てに、ソロモンたちは武闘場を襲った幻獣を全て倒すことに成功する。
◇
暴れまわる幻獣を始末し、武道場は安堵の空気に包まれる。
改めてアイゼン含む騎士団一同はシュタール公に跪く。
シュタールは今回の一件により、アイゼンに「恩赦」を言い渡す。
そしてこれからも余の傍で…そう続けようとするシュタールを遮るかのようにアイゼンはシュタールの申し出を断る。
アイゼンはシュタールに自分の身をトーア公国外への追放として欲しいと願い出る。
その願いはただ罰を乞うだけではなく、遠く辺境の地で幻獣に脅かされている多くの人々を一介の流浪の騎士となり、救うことに残りの人生を捧げたい。
それがアイゼンが敗北し野望を散らし、メギドの存在やメギドラルからの侵略というヴァイガルドの世界に降り掛かっている大きな脅威に気付いたことで至った自分自身の真に戦う道であった。
シュタールはアイゼンの願いを聞き届ける。
シバの女王も見守る中で、今回の大元であるトーア公国の騒動は無事解決に至った。
このまま「鉄血祭」を終えてこそ意味があると、シバは意気揚々と荒らされた会場の片付けを自ら率先して行う。
こうして、シバの発案もあり、決勝戦が時間を置いて執り行われることとなった。
ソロモンは、バロールがザミエルではなくアイゼンに協力していた事実を知る。
アイゼンがシュタールの命を救おうと願ったからこそ、その手助けのためにボティスに狙撃の件を伝えたのだった。
ボティスからも彼はいい人だと言われ、当のバロールは照れ臭そうにソロモンと話をする。
ソロモンはバロールのおかげでみんなを守ることができたと礼を言う。
ソロモンが一瞬、事態を理解するまでの間にボティスの盾がバロールの攻撃を防いでいた。
そう、会話をしていたその瞬間にバロールがソロモンめがけて攻撃を放ったのだ。
「アイゼンへの義理は果たした… だから次ァ俺の番ってことさ」
◇
謂れのない恨みに戸惑うソロモンであったが、バロールが「チリアット」の名前を出したことで対立の因果関係を理解する、
バロールは仲間だったチリアットの仇のためにヴァイガルドに戻ってきた。
更には作戦行動中の味方のザミエルを裏切ってまで、アイゼンの行動の手助けもしている。
おそらく、もはやメギドラルに戻れる居場所は無い。
ソロモンは、バロールの私闘を受ける代わりに、もし自分が勝ったらバロールが自分の軍団に加入することを条件に出す。
戸惑う仲間達にソロモンは、バロールがヴィータに味方したこと、先程の幻獣襲撃においても自分の仇討ちに関係の無いヴィータ達を共に守ってくれたこと
そういうメギドとならば一緒にやっていけると思ったことを話す。
その刹那、バロールの攻撃が再度ソロモンに飛んでくる。防ぐボティス。
ソロモンの仲間を増やして、ヴァイガルドを守りたいという意志、そして絶対に負けないという自負
それは時に、戦争社会で生きるメギドの感情を逆撫でするものである。
ウェパルも理想が先行しがちなソロモンの言動を嗜める。
「なんでもいいじゃん! つまるところさ、おっさんは俺らとケンカしてえんだろ?」
モラクスの単純明快な戦意にバロールも応える。
ボティスもバロールと共に戦う中で、彼の不器用さと真っ直ぐさを感じていた。
いい仲間になれると思う。だからここで戦う必要なんて…と説得しようとするボティスをバロールは遮った。
激しい戦闘の末、バロールが崩れ落ちる。
今すぐにはその気にはなれないが、しばらく気持ちを整理した後で軍団の門を叩くとバロールは約束する。
そこにシバの女王が会場の椅子を運びながら現れる。
ソロモン達がメギド同士の争いをしていた最中にも決勝戦の設営のし直しを自ら手伝っていたのである。
幸い、ヴィータに死傷者は出ていない。不穏分子の排除も完了した。
幻獣に襲われたものの、残すところあと1試合、シバは予定通り執り行うことを話す。
勝ち上がっていたのはボティスとバロール
しかし、バロールは先程の戦闘によるダメージと、もはや自分がこれ以上試合に出ることもないと決勝戦を棄権する。
そうなると規定ではバロールの直前の試合の敗者が繰り上げ出場となる。
その相手こそ、ボティスが自分の手で護ってきた相手、マケルー=ジャンであった。
シュタール公の宣言の元、決勝戦を戦う両者が向かい合う。
きっと、この大会が始まる前はマケルーに勝ちを譲っていただろう。
しかしそれは彼の戦士としての誇りを侮辱する行為だと知ったボティスは、真っ向から攻撃をしかけるマケルーの剣を受け止める。
試合は、一撃のもとに勝敗を決する。
会場は優勝者のボティスに惜しみない勝利を称える歓声が響き渡る。
ボティスには不思議と、罪悪感は無かった。
そしてその意味も分かっていた。
お互いに本当の意味で信用し、対等であれたからこそ相手を信用し、全力を出せたのだ。
ボティスの心の起きた変化に呼応するように、彼女の身体はリジェネレイトの兆候を発する。
しかし、時悪く、今まさにシュタール公から優勝者への剣の下賜が行われようとしていた。
ソロモンの召喚を我慢して耐えてみせたこともあるボティスも、リジェネレイトの強力な力の前には耐えきれず。
シュタール公に「その剣は受け取れない」と言い残し、その場から逃げ去ってしまった…。
後日、リジェネレイトを果たしたボティスの元にヒュトギンが現れる。
苦言を呈しながらも、彼はボティスに立派な装飾の盾を渡す。
ボティスが「剣は受け取れない」と言ったために、シュタール公はきっと剣ではなく盾の方が欲しかったのだろうと思いを巡らせ、彼女に相応しい品を用意したのであった。
トーア公国の騎士団にも入団して欲しいという話もボティスに持ちかけられる。
ボティスは自分がそんな役職に就くのは恥ずかしいが、準優勝者のマケルーにも入団できる資格も強さもあるはずだとアジトを飛び出していく。
ヒュトギンはソロモンへ、後のトーア公国の顛末について話す。
アイゼンは王都とも協議の結果、本人の提示した「追放」とする沙汰が下された。
実際のところ、一部の部下と共に辺境で王都が対応しきれていない幻獣被害からヴィータを救うための旅に出たのである。
ボティスは共に暮らしていたマケルーに吉報を伝えに家に戻っていた。
しかし彼の姿は無く、一枚の手紙と金が残されていた。
鉄血祭を経て自分の未熟さを思い知ったマケルーは、自身を鍛え直し、さらなる精進のための旅に出ることを決意したのだった。
そして、次に会う時にはボティスに甘やかされない、対等の1人の戦士として戻ってくることをマケルーは約束する。
ボティスはバカねと呟きながらも、彼の決心を嬉しいとも感じていた。
これから辺境へ向かおうとするアイゼン。バロールはその見送りに同行していた。
アイゼンが一言、共に来いと言えばついて行くとバロールは言うが、アイゼンはその提案を断る。
別れではなく、また道が交わる時を約束して、二人は別々の方向に歩み出した。
アイゼンとその腹心である元公国騎士団長デーゲン。そして放浪騎士マケルー。
幻獣を相手にした過酷な旅だが、しかしマケルーはボティスに誓った。再び会うまで二度と負けないことを、逃げ出さない者であることを。
辺境へ進路を取る三人のヴィータの姿を映し、物語は幕を下ろす。
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